夏らしい夏を送ることなく無理矢理詰め込んだ「海」の予定は墓地をくぐり、獣道を這い、抜けたところに現れる誰も居ない場所だった。
泳ぐことはおろか革のサンダルで来てしまったので足も漬けることなく寂しく波打つ音と潮の匂いを感じながら「ああ、今ここで拉致られても誰にも助けてもらえないな…死」と思ったのだった。海なんて一人で行くもんじゃねえ。
盛り上がりとはかけ離れた休日をそうして送ったけど心は穏やかで、こんな日がずっと続けばいいのになあと思った。
たっぷりとした睡眠と穏やかな気候、しっかり食べるごはん。それだけ揃えばなんとなく良いと思ってしまえるのだから誰もが描く「おだやかな日々」なんてすぐそこにあるのかもしれない。だけどその三点が揃うことってなかなか無いんだもんなあ。
欠けてしまったおだやかさを別の何かで補填して「おだやかな日々」に近づこうとしているのだろうけど、どこか違うちぐはぐなものに仕上がってしまって苦笑い。
I'm so lucky to have you in my life.
ちぐはぐな私にそう言ってくれる存在もいるから、自分の判断で自分を蔑むのはやめようと思ったりまた目が覚めたら忘れていたり。
冷蔵庫の中に1年放置してあったチューハイをようやく飲んだら忘れられていた味がした。夏の終わり。目の前のものを見ないふりして過ごすことは後々心をえぐり取られるヘビー級パンチになったりするもんだ。