眠らぬ夜の仕事に凝縮されためまぐるしい真っ直ぐな「生きる」

裏口から入る仕事はだいたい面白いを通説としている私は今、ラブホテルのお手伝いを月の何日かしている。

 

人が入れ替わり立ち替わり「性にまつわるドラマを真剣に抱えやってくる場所」はまっすぐで面白い。日本ほどバライティかつ清潔感と居心地の良さを兼ね揃えたラブホテルって無いのではないかなあとかつて海外の知人が話していた。

そうかもしれない。イケナイコトだという背徳感がこの職業を成り立たせている気もする。私はそういうドラマと同時に、裏で働く人々が実にドライかつ軽快であるそのギャップがとても好き。

 

働く人は「仕事」をこなしに交代制でやって来て、限られた時間の中で見事に沢山の部屋をセットし、電話応対をし、オーダーを作り、清掃する。

時々度肝を抜くお客さんが居たり、笑うしかないようなトラブルがあってそれでも部屋の中の人々が抱えるドラマを尻目に裏方ではスタッフが淡々と働いている。どちらもきちんと生きている感じがしてとても良い。

 

先日オーダーを持って行ったら中から網タイツの男性が出てきて(本来は対面せずとやり取りが出来る)わ!と思ったし相手もシマッタ!という顔をしていた。ある日はお金が足りないからという理由でATMに行く許可がほしいと頼まれたお客の連絡先を伺いに行ったら元職場の上司だった。

 

みんな必死で生きている。普段とは違う空間でそれでも自分自身の一面を生きている感じがヒシヒシ伝わってきて私は楽しくなる。どんなに怒りっぽい人も苦手な人も昨日腹が立った相手にさえも、どこかでこんな夜を過ごしているのかと思うと不思議と許せたりするから面白い。性欲は生活の一部であり、しかしながら隠さなくてはいけないと大人になればなるほどみんな一生懸命になりながら、日々を過ごしている。

 

「今日はさ、給料日後だからヘルスちゃんが良く来るのよ~」

風俗嬢の事をヘルスちゃんと呼ぶスタッフの言い回しがとても好きだと思った。デリヘルで働く人たちのドラマも私は知っているので(元デリヘルスタッフです)複雑かつ人が踏み入れない彼女たちの事をちょっとポップに言ってて良いなと思った。

キレイに揃えられたヒールと男性靴の趣味があまりにアンバランスだったり、オーダーの電話や受取を女の子がしていたら大体がヘルスちゃんだ。彼女たちもまた一生懸命「生きる」を模索して立っている。回りくどくなくシンプルでストレートな世界が一晩のラブホテル内で幾度となく流れていく。

ホテルの向かいにはどういう趣か葬儀場が構えてあって、たまに一晩中火が灯っている。めまぐるしいホテル内の動きをこなしながら部屋の窓からちらりと灯火が見えた時、この空間と対比したあの場所も含めて人生の縮図だなあなんて思う。そうぼんやり考える暇もなく時間は流れて行くのだけど。

深夜過ぎにやっと動きが緩やかになった頃、汗を流し走り回っていたスタッフたちが「今日もおわりじゃ~」と嬉しそうにタイムカードを押して行く。ここは人が知らない世界。だけどきちんと生きるが流れている世界。

みんな楽しい生活を。今しかできない生活を。未来につながる想いを抱いて生に執着することこそが明日を生きる糧になるのだとラブホテルの一晩をみると余計にでも強く思う。